NEXTSCAPE blog

株式会社ネクストスケープの社員による会社公式ブログです。ネスケラボでは、社員が日頃どのようなことに興味をもっているのか、仕事を通してどのような面白いことに取り組んでいるのかなど、会社や技術に関する情報をマイペースに紹介しています。

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AIエージェントと共創する未来:ツールから「チームメンバー」へ、そして業務プロセスの再定義へ

この記事は、NEXTSCAPE Advent Calendar 2025 の19日目の記事です。 Solution Architect / Chief Technology Office 所属の柳井が担当します。

この1年、AIを取り巻く状況は「進化した」という言葉では足りないほど、私たちの仕事の中に深く入り込んできました。
単なるツールの追加ではなく、開発の進め方そのもの、さらには業務プロセスの設計思想にまで影響を及ぼし始めています。

本記事では、この1年で実際に取り組んできたAI活用を振り返りつつ、これから本格化していく「AIエージェント時代」に、私たちエンジニア/SIerはどう向き合っていくべきかを考えてみたいと思います。


1. 模索の1年:AIが「現実解」になるまで

ちょうど1年前、私はAIを使ったレガシーシステムのモダナイゼーションプラットフォームの検証を行っていました。現行のソースコードやドキュメントをAIに読み込ませ、新しい仕様書とコードを生成する——いわば「既存資産を起点に、次のシステムを組み上げる」試みです。

当時は「面白いが、今すぐ実案件で安定して回すにはまだ早い」という結論に至りました。しかし、このとき得た「AIエージェントによるコーディングは、仕様(コンテキスト)を起点にしなければ成立しない」という確信は、今の取り組みの大きな伏線となっています。

その後、状況は劇的に変化しました。

  • Cursor をはじめとした開発支援ツールの圧倒的な進化
  • Claude Code のような CLI ベースの強力なツールの登場
  • MCP(Model Context Protocol)サーバーによる外部ツール連携の普及
  • 等々

これらにより、AIは「精度の高い回答を出す箱」から、「開発フローの中に組み込める実用的なエンジン」へとそのラインを越えたのです。


2. 本格的なAI駆動開発への挑戦:コーディングの8割を託す

「検証」の段階を終え、私たちは実案件へのAIエージェント投入を決断しました。掲げた目標は、「コーディングの8割をAIエージェントが担う」です。

実際に運用してみて改めて浮き彫りになったのは、「仕様の解像度」がAIのパフォーマンスを左右するという事実です。

  • AIエージェント活用の鉄則
    •  仕様が曖昧な場合:AIのアウトプットが安定せず、人間による手戻りが急増する。
    •  仕様が明確な場合:AIは驚異的な速度で安定したコードを生成し、開発のリズムを劇的に加速させる。

AIエージェントを継続的に運用するには、場当たり的な指示(プロンプト)ではなく、「仕様を起点とした開発プロセス」への刷新が不可欠であることを痛感しました。


3. マインドセットの転換:AIを「チームメンバー」として迎える

AI駆動開発を進める中で、私たちは「AIをツールとして使いこなす」という捉え方そのものを変える必要があると感じるようになりました。いま意識しているのは、AIエージェントを「新しく加わったチームメンバー」として扱い、オンボーディング(受け入れ)を行うという感覚です。

■ AIに必要なのは「指示」ではなく「文脈」

新しいメンバーがチームに入ったとき、いきなりコードの一部だけを見せて「ここ直しておいて」と丸投げすることはありません。プロジェクトの背景、目指しているゴール、過去の経緯、そして守るべき特有のルール。それらを丁寧に共有して初めて、メンバーは自律的に動けるようになります。

AIエージェントも全く同じです。

  • 背景と制約の共有: なぜこの実装が必要なのか、どのライブラリを優先し、何を禁止しているのか。

  • 情報の整理: 膨大な情報の中から、そのタスクを遂行するために必要なコンテキストを過不足なく提示する。

■ 「AIが動ける環境」を整える責任

AIは、チームが共有している「暗黙の了解」や「現場の空気」を感じ取ることはできません。だからこそ、こちらが提示するドキュメントやコード、仕様の整理状況が、そのままAIのパフォーマンスの限界値になります。

AIエージェントが「何をすべきか」を迷わずに判断し、高い精度でアウトプットを出せる状態をいかに作るか。 それは、指示を出すというよりは、AIが自走できるための「舞台装置」を整えるという、エンジニアとしての新しい設計の仕事に近いものだと感じています。


4. 業務プロセスの再構成:エージェントの「専門性」と「アイデンティティ」

AIエージェントの真価は、コーディング領域を超え、実業務のプロセスの中に深く入り込んだときに発揮されます。そこで重要になるのは、汎用的なAIを配置することではなく、「特定の業務におけるプロフェッショナル」としての専門性をAIにどう持たせるかという設計です。

具体的には、以下の3つの観点から業務プロセスを再構成していく必要があります。

■ 特定ドメインに特化した「専門性」の設計

AIエージェントに期待するのは、単なる情報の要約や定型処理ではありません。その業務特有の慣習、背景知識、そして専門的な判断基準を反映したアウトプットです。

  • 専門知の注入: 汎用モデルに頼るのではなく、業務特有のドキュメントや過去の判断ログを「コンテキスト」として高密度に結合する。

  • 自律的なタスク遂行: ルールベースの自動化とは異なり、与えられた専門性の範囲内で「次に何をすべきか」を自ら判断し、情報収集から選択肢の提示までを完結させる。

■ 「アイデンティティ(判断軸)」の付与

AIエージェントをプロセスに組み込む際、私たちはそのエージェントに「立場」を与えます。これは単なる権限設定ではなく、「アイデンティティ」の設計だと考えています。

  • 責任と行動原則: 「何を判断してよいか」「どのリスクを回避すべきか」という、その業務を担う人間と同じレベルの判断軸を明確に持たせる。

  • 自律性と安全性の両立: 明確なアイデンティティ(役割・責務)があるからこそ、人は安心してAIに実務を委ね、AIは越権することなく専門性を発揮できます。

■ エージェント同士が連携する「エコシステム」

先日、Microsoft Ignite 2025 で発表された Agent365 のように、これからは多くの「専門家エージェント」が共存する環境が整っていきます。 一つの巨大なAIを作るのではなく、特定の業務に特化したエージェントを複数配置し、それらが互いに連携しながら一つの大きな業務プロセスを回していく。私たちは、こうした「エージェント間の協調体制」そのものを設計していくことになります。

 

AIエージェントは、もはや「便利なツール」ではなく、業務知識を実装された「自律的な主体」です。 従来のシステム設計が「データの流れ」を作るものだったとすれば、これからの設計は「専門性と判断の連鎖」を作るものへと変わっていくのではと思います。


5. これからのエンジニア、SIerの役割

AIエージェントが業務に溶け込む世界において、私たちの価値はどこにあるのでしょうか。

それは、単に「システムを構築すること」から、「AIと人が共創する新しい業務プロセスそのものをアーキテクトすること」だと考えています。

これまでSIerは、要求された機能をコードに落とし込むことが主な役割でした。しかし、AIエージェントが自律的に動く世界では、私たちの価値は次のような「共創」の領域にシフトしていくと考えています。

■ 「機能」の設計から「価値の流動」の設計へ

これまでの「ユーザーが入力し、システムが処理する」という固定的なフローを設計する時代は終わります。AIエージェントという新しい主体が、いつ、どこで、どの情報を使い、誰と協働して価値を生むのか。その「価値が流れるプロセス」そのものを設計し、実装することが私たちの主戦場になると考えています。

■ AIと人のハイブリッド・オーケストレーション

AIエージェントは万能ではありません。だからこそ、AIの得意な「高速な処理や情報集約」と、人間の得意な「意思決定や感性による判断」を、どのタイミングで、どの粒度で融合させるか。その高度なオーケストレーション(調和)が、システムの性能、ひいては企業の競争力を左右してくると思います。

■ 「変化し続けるプロセス」を創り続ける

AIエージェントを組み込んだ業務プロセスは、一度作って終わりではありません。AIの進化やビジネスの変化に合わせて、プロセスを動的に組み替え、改善し続ける「アジリティ(俊敏性)」をシステムに組み込むこと。この継続的なプロセス開発こそが、これからのSIerが提供すべき価値になってくると考えます。

私たちは「作る人」から、「AIとともにビジネスを動かす新しい仕組みの創出者」へ。 すべてを自分で実装するのではなく、AIエージェントが最大限の力を発揮し、人間がより本質的な活動に集中できる「場」を創り出していく。それこそが、これからの時代に求められるエンジニアの姿ではないでしょうか。


おわりに

AIエージェントを前提とした世界は、まだ始まったばかりです。 だからこそ、ツールのの話にとどまらず、「業務プロセス体制そのもの」をどうリデザインしていくか。より踏み込んだ挑戦をシステム開発の現場で実践していきたいと思います。