ジョークRFCのはなし

◆この記事は

NEXTSCAPE クラウドインテグレーション事業本部 Advent Calendar 2018

における12/16の記事です。

こんばんは。ご機嫌いかがでしょうか。岩谷と申します。どうもはじめまして。

色々書きたいことがあったのですが、断腸の思いで「ジョークRFC」と呼ばれるものについてご紹介させて頂きたく思います。あまり技術な記事ではないのですが、暇な時にでも読んでいただけたら嬉しいです。

伝書鳩

◆はじめに

例年、エイプリルフールになるとネット界隈はユーモアに色めき立ちます。

リンクはちょっと載せられないのですが「エイプリルフール 公式」とかでググれば色々みつけることができるかと思います。

こういった「公式わるふざけ」文化の歴史は長く、インターネットが爆誕した直後の地層からその興りを観測することが出来ます。
それというのも、そもそものインターネットを形作っている機関がジョークを公開しているのです。

◆IETFとRFC

「インターネットを形作っている機関」。その名も「The Internet Engineering Task Force」は、簡単に言うとインターネットで使う技術の仕組みを考えてくれている団体です。情報化社会がメキメキと成長したのは彼らの下支えあってのことです。足を向けて寝られない。

「The Internet Engineering Task Force」こと「IETF」のメンバーは、技術仕様の提案を「Request For Comments」として公開しています。CSVJSONのRFCをあたったことがある人も多いのではないでしょうか。

例えば2017年12月に公開された「RFC 8259」では、JSONファイルのフォーマットを(再)定義しています。そして、外部通信に使用されるJSONのテキストエンコードが「UTF-8」に統一されたりしている。
それがどういった効用をもたらすかというと、例えば文字コードがSJISなJSONをやり取りしている人間を見かけたときなんて、「ひかえおろう!」と三つ葉葵の「RFC 8259」を提示した日にはもう、ハハーッ!m(_ _)mってなもんです。[要出典]。
ちなみに「UTF-8」も「RFC 3629」で定義されています。

RFCはそりゃ世間一般に公開するものでありますから、下手なことを書くことはできません。みんな真剣に書いている。自分からしてみれば、適当なRFCを開いてみたらまず英語だし、英語を頑張って読んでも論文みたいなものだから理解には結構時間がかかる。

◆でも技術者はジョークが大好きです

昔のインターネット技術者なんて趣味の人でしかなくて、ハッカーだのギークだのと呼ばれるようなのばっかでした。
そして、ハッカー気質な人はジョークが好きです。あとスターウォーズ銀河ヒッチハイク・ガイドも多分好きです。

ちょっと例を挙げると

とか。

また、ジョークとはちょっと違うけどジャーゴンファイルなんかを漁っていると本当に面白い記事が多い。英語の勉強にもなります。
例:A Story About 'Magic'

そして、本題のジョークRFCです。一番有名な「鳥類キャリアによるIP」を紹介しようと思います。
つまりこれから「ジョークのどこが面白いのか詳説する」という愚挙に打って出ます。ゆるして!

◆鳥類キャリアによるIP

1990年のエイプリルフールに投下された「RFC 1149」では、鳥類(Avian)を利用したIP(Internet Protocol)の標準規格について解説をしています。
ポイントを和訳しながら、ちょいちょい解説を入れていきます。
突っ込みどころしかないけど、深追いせずに淡々と進めていこうと思います。

▼タイトル

A Standard for the Transmission of IP Datagrams on Avian Carriers

すなわち「鳥類キャリアを利用したIPデータグラムの伝送規格」について。鳥類キャリアっていうのは多分、伝書鳩かなんかを想像すればいいでしょう。
そんなもん定めてどうなるのでしょうか。

▼Status of this Memo

This memo describes an experimental method for the encapsulation of
IP datagrams in avian carriers. This specification is primarily
useful in Metropolitan Area Networks. This is an experimental, not
recommended standard. Distribution of this memo is unlimited.

・This specification is primarily useful in Metropolitan Area Networks.
 ⇒この仕様は主にメトロポリタン エリア ネットワークで役立ちます。

Metropolitan Area Network(MAN)は、LAN(Local Area Network)より広くてWAN(Wide Area Network)より小さい。つまり、大学や都市などをカバー対象としているANのことです。そこで「鳥類キャリアは大都市圏で役立ちます」ってことを言っている。

▼Overview and Rational

Avian carriers can provide high delay, low throughput, and low
altitude service. The connection topology is limited to a single
point-to-point path for each carrier, used with standard carriers,
but many carriers can be used without significant interference with
each other, outside of early spring. This is because of the 3D ether
space available to the carriers, in contrast to the 1D ether used by
IEEE802.3. The carriers have an intrinsic collision avoidance
system, which increases availability. Unlike some network
technologies, such as packet radio, communication is not limited to
line-of-sight distance. Connection oriented service is available in
some cities, usually based upon a central hub topology.

・Avian carriers can provide high delay, low throughput, and low altitude service.
 ⇒鳥類キャリアは高い遅延、低いスループット、低高度サービスを提供することが可能です。

使い物にならないという事に言及しています。また、high lowにかけてlow altitude≒低高度であると表現しています。

・many carriers can be used without significant interference with each other, outside of early spring.
 ⇒多くのキャリアが互いに干渉することなく伝送されます。早春を除いて。

下ネタ!!!!1111

・This is because of the 3D ether space available to the carriers, in contrast to the 1D ether used by IEEE802.3.
 ⇒干渉しない理由は、IEEE802.3. に準拠した「一次元イーサネット」ではなく「三次元イーサ空間」をキャリアが使用するからです。

電気通信はミクロ視点では一本のケーブルを通るわけだから一次元の通信です。対して、鳥類キャリアは既存のデータ通信より高次元だということで優位性を主張しています。

・The carriers have an intrinsic collision avoidance system, which increases availability.
 ⇒キャリアは固有の衝突回避システムを備えており、それにより可用性が向上します。

イーサネットの通信方式には、半二重通信と全二重通信という種類があります。
半二重通信では、別々のノードが同時にパケットを送信してしまった場合、パケット同士が衝突してしまう。その時、双方とも通信することが出来ない。その衝突は「Collision」と呼称されます。その点、鳥類キャリアはキャリア同士の衝突を自ら回避するから有用なのです。なるほどね(感心)。

・usually based upon a central hub topology.
 ⇒通常、中央ハブトポロジーに基づいています。

スター型通信、すなわち中央の交換設備(ハブ)を介して各ノードが通信をするトポロジーに基づくと言っています。
例えば伝書鳩は帰巣本能をもとに運用されるものであるから、鳩舎から持ち出された鳩が飛んで鳩舎に戻るという動作しかできません。その鳩舎をハブに見立てて説明しています。

▼Frame Format

The IP datagram is printed, on a small scroll of paper, in
hexadecimal, with each octet separated by whitestuff and blackstuff.
The scroll of paper is wrapped around one leg of the avian carrier.
A band of duct tape is used to secure the datagram's edges. The
bandwidth is limited to the leg length. The MTU is variable, and
paradoxically, generally increases with increased carrier age. A
typical MTU is 256 milligrams. Some datagram padding may be needed.

Upon receipt, the duct tape is removed and the paper copy of the
datagram is optically scanned into a electronically transmittable
form.

・The IP datagram is printed, on a small scroll of paper, in hexadecimal, with each octet separated by whitestuff and blackstuff.
 ⇒IPデータグラムは小さく巻かれた紙に16進数で印刷されます。各オクテットは白いのや黒いので区切られます。

紙に16進数を書いて送るというシュール。stuff(ねばねば)は多分だけど鳥類の糞のことを言っていると思います。white spaceのもじりだな。

・A band of duct tape is used to secure the datagram's edges.
 ⇒ダクトテープで紙データグラムの端を留めることでセキュアになります。

セキュアとはいったい・・・うごごご!!

・The bandwidth is limited to the leg length.
 ⇒(データグラムは鳥類の足に巻き付けるという仕様により)帯域幅は鳥類の足の長さに制限される。

帯域幅はつまり通信路容量の事を言っていて、鳥類の足が長い場合、より大きいデータグラムを巻き付けることができるねと言っています。やかましいわ。

・Upon receipt, the duct tape is removed and the paper copy of the datagram is optically scanned into a electronically transmittable form.
 ⇒データグラムが受領されたとき、ダクトテープは除去され、紙データグラムは電子転送可能な形式に光学スキャンされます。

紙のテープをはがして目で見て脳に入れるってことを大仰に言っています。

▼Discussion

Multiple types of service can be provided with a prioritized pecking
order. An additional property is built-in worm detection and
eradication. Because IP only guarantees best effort delivery, loss
of a carrier can be tolerated. With time, the carriers are self-
regenerating. While broadcasting is not specified, storms can cause
data loss. There is persistent delivery retry, until the carrier
drops. Audit trails are automatically generated, and can often be
found on logs and cable trays.

・An additional property is built-in worm detection and eradication.
 ⇒追加機能として、ビルトインのワーム発見および除去機能をもっています。

鳥類が虫を見つけて食べることと、マルウェアの一種である「ワーム」をかけています。

・Because IP only guarantees best effort delivery, loss of a carrier can be tolerated.
 ⇒IPはベストエフォート型配信のみを保証するため、キャリアの損失は許容されます。

IPというのはアプセトネデブで言うところのネットワーク層であり、「ベストエフォート型」です。
つまり、パケットの破損、消失、順序不整合が起きてもしらないよって姿勢のプロトコルです。
それを笠に着て「鳥類がどこかにいっちゃってもそれは許容してね」と言っています。

・While broadcasting is not specified, storms can cause data loss.
 ⇒ブロードキャストは規定されていませんが、嵐(ストーム)はデータロスを引き起こします。

ブロードキャストとは、ネットワークに参加している全てのノードに同じ情報を同時に送ることです。飛ばす鳥類は一匹ずつなもんで、当然ブロードキャストはできません。
そしてストームは「ブロードキャストストーム」という用語にかかっています。ネットワーク機器の伝送経路がループしている構成を起因として、フレーム(=パケット)が(時に増加しながら)ネットワーク上を駆け抜け続けてしまう状態です。
それを「鳥類が嵐に遭う事」とかけています。

・Audit trails are automatically generated, and can often be found on logs and cable trays.
 ⇒追跡記録は自動的に生成され、それらはしばしば丸太(ログ)やケーブルトレー上で観測することが出来ます。

鳥類は伝送経路に糞を生成することで追跡記録を自動的にログに残している。うまい。感心した。
cable traysはケーブルをまとめるためのトレーのことだと思われます。サーバーから延びる配線をまとめて頭上を通したりするために使用されます。それと電線ケーブルをかけているのだろうか。たぶんですが。

▼Security Considerations

Security is not generally a problem in normal operation, but special
measures must be taken (such as data encryption) when avian carriers
are used in a tactical environment.

 ⇒通常のオペレーションではセキュリティは問題にはなりません。しかし、戦時に使用する場合はデータ暗号化などの特殊な手段が必要となります。

エニグマ暗号機が有名ですが、暗号化はいつの時代も戦時通信をするうえで重要な技術でした(です)。
戦時のデータキャリアとして鳥類を使用する際には暗号化をしようねというセキュリティ検討事項です。これは、戦時中に伝書鳩が軍鳩として活躍した事実に触れているのでしょう。
そんなケース想定しなくていいから・・・

◆以上

元のRFCは以上で終わっています。
その後の動向としては「RFC 2549:鳥類キャリアによるIPのサービス品質」においてQoSが規定されているし、「RFC 6214:RFC1149のIPv6対応について」ではIPv6対応が進められていることが分かります。

また、ノルウェーのLINUXユーザーグループではRFC1149のネットワークテストが行われ、Pingが飛ばされたりしました。

このように、ジョークを愛している人間たちが多くいるのがハッカー界隈です。この記事を切っ掛けにRFCを読んだり、ハッカー文化に触れようと思った人がいてくれたら幸甚です。


ネクストスケープ企業サイトへ

NEXTSCAPE

検索する

タグ

メタデータ

投稿のRSS