
「AIがコードを書く時代」と言われる昨今、本当に“人間は手を動かさなくてもいい”ところまで来ているのか?
第2回となるAI活用共有会では、そんな問いに真正面から挑んだ実践例が共有されました。照山さんは、ノーコードAI開発環境「Cursor」を活用し、Webアプリケーションをほぼ“コードを書かずに”構築。
AIとの対話を通じて、ゼロからサービスが生まれていく過程は、まるでエンジニアがAIとペアプロをしているような感覚。だがその裏には、AIならではの落とし穴や“壊されるリスク”も潜んでいました。
本記事では、Cursor体験と参加メンバーとのリアルな議論から、「AIと協働する開発」の現実を掘り下げていきます。
イントロダクション:AIとの「協働開発」はどこまで進んだ?
「AIがコードを書く時代」——そんな言葉を聞いたことがある人も多いはず。でも実際のところ、AIは“どこまで”開発の役に立つのか?そして“どうやって”活用するのか?
第2回AI活用共有会では、照山さんが自身の体験をもとに、AI開発環境「Cursor」を使ったノーコード開発のリアルを共有してくれました。
彼が掲げたのは「AIと協働して、コードを書かずにWebアプリを開発できるか?」というチャレンジ。その実例を通じて、AI開発の可能性と落とし穴が浮かび上がりました。
開発テーマ:ビジネス向けトラッキングソリューションの構想
発表の冒頭で紹介されたのは、AlterLockデバイスを活用した「ビジネス向けトラッキングソリューション」。もともとコンシューマー向け製品として展開していた技術をベースに、より汎用的なアセット管理・位置情報管理システムを目指したものです。
アセット(管理したいモノ)にデバイスを紐付け、ジオフェンスやバッテリー通知なども含めて一括管理する仕組み。マルチテナント構成、ユーザー管理、組織管理といった機能まで含まれた本格的なWebアプリを、Cursorを使って短期間で実装しました。

Cursorでの開発体験:1行もコードを書かずにアプリができる?
「私はこの開発で、一行もコードを書いていません」
VS CodeベースのCursor上で、チャット形式で指示を出しながらプロジェクトを一から構築。まずはユーザー管理機能を、次に二段階認証、そして資産情報の管理やマップ表示まで。
驚くべきは、それらを“ペアプロ”のようにAIとやり取りする中で完成させていったという点です。画面のスタイル修正やタイトル変更など、ほんのわずかな微調整を人の手で行ったのみだったそうです。
便利さの裏側にある注意点:勝手に壊すAIの一面
とはいえ、良いことばかりではありませんでした。Cursorに大量のコード生成を任せた結果、「知らないうちに他の画面に影響が出ていた」「スタイルが破壊された」「DBテーブルが重複してできていた」といったトラブルが頻発。
「全体の構造を把握しているわけではなく、コンテクストが限定的」と照山さん。特定のファイルや機能だけを操作させるように明示的に制御しないと、意図しない修正が生じるケースも多かったと語ります。
Claudeとの比較活用:やさしい?丁寧?それとも壊し屋?
この日、参加者からも活用事例が共有されました。開發さんはCursorとClaudeを併用し、Cursor上でClaude Codeの出力も活用していたとのこと。
「Claudeは丁寧だけど、文脈を見ずに壊すことも多い」とのコメントがあり、結局のところ“人間の目でレビューする必要がある”という点は一致した見解に。
便利であるがゆえに、少しの油断でシステム全体が破綻しかねない。これはAI開発ツール共通の課題といえるでしょう。
セキュリティとパフォーマンスは人間が守る
セキュリティの観点でも注意が必要でした。管理者専用機能の制御が効いていなかったり、SQLがループで数百回実行されるような非効率な実装があったりと、放置できない問題も。
そのたびに指示を変えて、修正を重ねていく必要がありました。「AIは実装してくれるけど、セキュリティやパフォーマンスの意図までは汲み取らない」ことが明確になったといいます。
Cursor+Codex+ChatGPT:AI三刀流開発術
照山さんはCursor以外にも、CodexやChatGPTと併用することで、AIを「分担」して使う工夫をしていました。外出先で機能追加をしたいときにはCodexで指示しておき、帰宅後にマージして検証、といったワークフローも可能になったといいます。
また、実装方式から調査して、どの技術を採用するか検討する場面では普段から使い慣れているChatGPTを使っていました。
まさに“AI三刀流”。それぞれの強みを活かして使い分けることで、より柔軟で効率的な開発が実現できるのです。
対話形式が鍵:「一緒に作る感覚」が生む開発体験の変化
今回の取り組みで印象的だったのは、「AIと一緒に作っている感覚」のリアリティでした。
「要件を全部書いて渡すのではなく、チャットで段階的に指示を出しながら一緒に組み立てる」という手法は、従来の受託開発やウォーターフォール型開発とは全く異なる体験です。
参加者からも「対話しながら進めると自分も理解が深まる」といった声がありました。
まとめ:AIを開発パートナーにするために大切なこと
Cursorは、確かに“コードを書かずに開発ができる”夢のようなツールかもしれません。
しかし、それを実現するには「限定的なコンテクストでの指示」「レビューと修正」「目的意識のあるドキュメント整理」など、人間の戦略的な介入が不可欠です。
AIは開発者の“補助”ではなく、いまや“協働者”になりつつあります。この共有会が示したのは、AIと人間が信頼関係を築きながら共にものづくりをする、新しい開発のかたちでした。
次回の共有会では、どんな“協働”が生まれるのか。ますます楽しみです。
第1回の記事はこちら。