NEXTSCAPE blog

株式会社ネクストスケープの社員による会社公式ブログです。ネスケラボでは、社員が日頃どのようなことに興味をもっているのか、仕事を通してどのような面白いことに取り組んでいるのかなど、会社や技術に関する情報をマイペースに紹介しています。

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プロジェクト目標を共有できないチームでプロジェクトを成功させるのは難しい~ステークホルダーエンゲージメントマネジメント~

この記事は「NEXTSCAPE Advent Calendar 2022」の25日目の記事です。

qiita.com

今年もしんがりを務めます、小杉です。

年の瀬も押し迫ってきた12月25日。皆さん、年初に立てた目標は達成できましたか?

僕は毎年、元日に初詣に行きます。2022年に絵馬に書いたことは、サイクルロードレースの甲子園、ツールド沖縄の50kmフォーティーで表彰台に乗ることでした。


最後に開催されたのが2019年。その年は、先頭集団でラスト4km地点で発生した落車に巻き込まれ落車し、不完全燃焼で終えた後味の悪いレースでした。
その後、毎年、同じ神社に初詣に行くたびに、同じ目標を絵馬に書き、奉納してきました。
しかし、コロナ禍でその後レースが行われることなく、3年ぶりに開催された沖縄。
今年こそは、という思いで1年をかけて準備してきました。
その結果は。。。トップと1.18秒差で10位、という、過去最高の順位だったものの、表彰台には届かず、ゴールした直後は悔しさのあまり、しばらく動くことができませんでした。
帰路に就いたフライトの中で、1年かけてやってきたことを振り返り、自分自身の体組成、トレーニングの質と量、レース展開に合わせた動き方や駆け引き、安易に逃げをつぶした愚策、勝つという意識、宮澤選手*1、様々なことに思いを巡らせ、来年こそは、表彰台ではなく優勝を狙う、と目標と決意を新たにしました。
悔しいということは、やり残してきたことがたくさんあるってことです。後はやるだけだ。

自宅に戻り、家族と夕食を共にし、*2沖縄のレースの話をしました。
奥さんからは、ところで、今年のレースはもう終わりなの?と。*3
そうだね。と、僕。
じゃあ、これからは土日は子供の面倒見てね、ワンオペ育児は辛いと。*4
今週末は練習がある。もう、来年の沖縄はもう始まってるんだ( ー`дー´)キリッ*5

はい、ガチギレされました。。。

僕はPMPを保持するプロジェクトマネージャーでもあります。
重要なことを失念していました。
プロジェクトの成功には、ステークホルダーの協力が必要不可欠であることを。

ステークホルダーエンゲージメントマネジメントに重要なポイントは、適切なタイミングでステークホルダーの情報ニーズを満たすことにあります。

すかさず、来年の沖縄に勝つためには、今年やりきれなかった様々な事柄。。。。
より一層のダイエット*6、きついトレーニング(質)とより一層の乗り込み(量)、それに伴うリカバリー(睡眠時間)、多くのレースに参加することによるロードレース脳の発達が必要であることを説明しました。

はい、火に油を注ぐとはこのことです。

そうです。
僕はPMPを保持す(ry
プロジェクトの成功には(ry
ステークホルダーエンゲー(ry
情報ニーズを満たす前に。
共通のプロジェクト目標を持つことが重要なんです。

奥さんにとって、僕のプロジェクト目標である、沖縄優勝、これはまったく共感できない、むしろ、それを目標にされることによるデメリット(家事と育児の負担増)の方がよっぽど大きいわけです。

ここで急に仕事の話をします。
皆さんが日々、携わるプロジェクトには必ずプロジェクト目標があります。
さて、皆さんはそのプロジェクト目標を正しく理解していますか?
はい、言葉では理解はしていると思います。
説明もできると思います。
では、そのプロジェクト目標に共感できますか?そのプロジェクトの目標が達成された暁には、明るい未来を感じてワクワクできますか?そして、その目標達成のために時には辛い局面を迎えても、前向きにやり抜く力が湧いてきますか?
皆さんの中には、ご自身ではもちろんです、って胸を張って言える方々もいるでしょう。
でも、チームの中やその周辺、つまり、ステークホルダーを見回したときに、果たして、そのステークホルダーの多く*7が皆さんと同じように思ってくれているでしょうか。

もう、20年も前になりますか。
私が、とあるECサイトのPMをやっていた時、協力会社*8のメンバーに向かって
「皆さんは、ECサイトでCD買うならどこで買いますか?」と、会議の中で尋ねました。
「〇MV」やら「TSU〇YA」など、メンバーからは顧客の競合他社のサイトの名前が挙がりました。
「だって使いやすいから」とか「サイトが安定しているから」など、値段や品ぞろえといった、顧客の競争力ではなく、明らかに僕らの力不足からくる原因について言及されたので、僕は*9
「だからお客さんは怒ってるんだよ!!作っている僕ら自身がこのサイトで買いたいって思うようなシステムを作ろうよ!!」
と、語気を荒げてしまいました。
僕の発言を聞いていたその会社の偉い方は、「いやー、小杉君、よく言ってくれた!!今晩、飲みに行こう!!」
いやいや、僕の発言は本来、上司である、あなたが言わないといけないことですよね、という話を今は亡きその方に滔々と話した思い出があります。

このように、プロジェクト目標がチームやステークホルダー間で共有されていないと、プロジェクトの成功は極めて困難になります。
理解する、共有する、というのは、単に文章や文字をなぞることではありません。そして、*10システムを作る作業をすることでもありません。自分事として共感する、その目標に自らを溶け込ませることができることを言います。
ところが、プロジェクトが大きくなっていくと、自ずとチームもステークホルダーも多くなり、同じ目標を共有する、ということそのものが困難になります。
特に、プロジェクトが大きくなればなるほど異なった背景を持つメンバー、ステークホルダーが増え、中には、プロジェクトが失敗することや足を引っ張ることの方が自己の利益になってしまうことすらあります。*11
オリンピックやワールドカップといった国際的なプロジェクトですら、理解が得られない、共感されない、開催反対、なんてこともあるわけです。
よく、マスコミなんかで言われますが、そういう、国民の意見を分かつような政策、イベントなどに対して、「説明が足りない」と言われます。
本当に説明が足りないこともあるでしょう。しかしながら、説明を繰り返しても理解と共感を得られなければ、どんなに論理的に、懇切丁寧に説明を何度も繰り返しても「分かってもらえない」のです。

僕は最近、論理的に懇切丁寧に説明するために払う労力のことを「説明するコスト」、理解、共感を呼ぶためにする労力のことを「分かってもらうコスト」という言葉を使うようになりました。

どんなに僕たちが技術的に、論理的に、誠心誠意、説明を繰り返しても分かってもらえない、というより、そもそも分かろうとしていない姿勢が透けて見え、分かってもらうコストを払うことはもとより、説明するコストすら払いたくなくなるような事態にも陥ったことがあります。

特に、僕たちエンジニアは、論理的に説明すれば相手が分かってくれるはずだ、という前提に立っていることが多いと思います。
というのも、僕たちは日々、コンピューターにコードという形で説明をしており、コンピューターはコードが論理的に間違っていなければその通りに動いてくれるからです。
ですので、論理的、技術的(時には科学的に)説明をしても理解/共感を得られないことに慣れていないと言っても過言ではないと思います。

ところが、プロジェクト、というのは、結局は人で実施されます。様々な目的、時には異なった政治的背景を持った人たちをこのプロジェクトの目標のために協力的に*12動いてもらわなければなりません。
これがPMBOKでいうステークホルダーエンゲージメントマネジメントです。

皆さんは、プロジェクト目標を「分かってもらうコスト」を払っていますか?同じチームだから、同じプロジェクトだから、同じ会社だから、*13「分かってもらって当然」と思っていませんか?
人は、論理的/技術的/科学的に説明されたからと言って、必ずしもその通りに動くわけではありません。
むしろ、情緒的に、感情的に、時には雰囲気に流され、そして、自分が信じる誰かが言っていたから、といった理由で動いてしまうことも多いと言えます。
人は予想通りに不合理なのです。*14
安心と安全の話も同じことです。
科学的にどんなに安全だ、という説明を繰り返しても、なんとなく不安だ、ということで丹精込めて作られた安全な福島産の農産物がいまだに流通量が低迷していたり、某国においてはそもそも理解するつもりもなく、一方的に輸入禁止にしたり。

牛肉の輸入の全頭検査を要求し、統計的に問題ないとされても輸入しなかったり。

翻って、僕たちはプロジェクトのチームメンバーやステークホルダーに対して、論理的な説明だけをして理解や共感を得ようとしていないでしょうか?
論理的かつ明快に説明することは必要条件であって、十分条件ではない、ということが真実だとすると。

何をすればよいのでしょうか?

僕がいつも言っているのは、夢と希望と安心と安全を渡す、ということを言っています。
まずは、PMが。そして、コアチームが、プロジェクト目標に向かって夢と希望をもって、情熱的に、前向きに説明し、そして取り組むこと。
すると、いつの間にやら水面に広がる波紋のように同心円状に広がり、多くのステークホルダーを巻き込み、いつの間にやらプロジェクト目標に向かってメンバーが、チームが、熱にうなされたように自律的に動き始めます。
ワールドカップやオリンピックで選手やチームがいつの間にやら国民を巻き込み、感動の渦を作ったように。

これでもまだ抽象的ですね。
具体的な方法論になっていない、とのご意見が出るのはごもっともだと思います。
ただ、これが理想の形である、ということを念頭に置いて、次に、僕が実践したやり方を一つ、ご紹介いたします。

と、あるプロジェクトで、経営陣、営業、開発者を集め、まずは経営者から、あるビジネスが作り出す彼が描きたい社会、未来を語ってもらいました。
その後、そういった社会/未来において、自分たちはどういう恩恵を受けることになるか、を発表してもらいました。
次に、じゃあ、そういう社会/未来において今作っているシステムの意味を考えてもらいました。
そして、次にやったことは、「このシステムが在る社会/未来が実現したら、自分にとって大切な人からどんな言葉をかけてもらいたいか」と尋ねました。奥様、ご子息、ご両親、恋人、人によっては友人など、様々な大切な方々からの言葉を大切そうに発表されていました。
そして最後に、じゃあ、今のシステムはその社会/未来において何が足りないか、ということを尋ね、アクションプランへとつなげていきました。

何をやったかというと、在るべき未来(夢)と現実を行ったり来たりしながら共有し、このプロジェクトを他人事ではなく、自分事としてとらえてもらい、そのために自分たち自身で、「このアクションプランならできる」という希望を持ってもらったわけです。

他にもやり方があるとすると、それは、エンゲージメントしたいステークホルダーに影響を及ぼすステークホルダーを特定し、そのステークホルダーに自分(達)の代わりに伝えてもらう、というやり方です。
これは皆さん個人でも経験したことがあるのではないでしょうか。
誰かに何かをお願いされたけど、今は仕事が忙しいからお願いを聞きいれなかった。
ところが、自分にとって大切な人から代わりにお願いをされたら、彼(彼女)に言われたら一肌脱ぐか。。。
ということです。
代わりに伝えてもらうということをプロジェクトで言えば、自分(自社)の代わりにプロジェクト目標を夢と希望をもって*15伝えてくれる会社にあるシステム範囲を外注するというようなやり方です。*16ここで重要なことは、相手先の会社の理念や目標、戦略に照らし合わせて、そこに合致するように*17渡すことです。*18
僕はとある大規模映像配信のアプリ部分をそんなやり方である会社にお渡ししたことがあります。*19

ネクストスケープは「顧客のビジョンに共感し、感動を実現します」

僕らネクストスケープは、プロジェクトを請け負う際に、顧客が自分たちのプロジェクト目標を「説明するコスト」さえ払っていただければ、「分かってもらうコスト」は最小限でいい、と、言い切れる会社で在りたいのです。

沖縄の話に戻ります。
僕のプロジェクト目標(沖縄優勝)が現時点で重要なステークホルダー(奥さん)と共有できていないことが分かりました。
教科書的な言い方をすれば、プロジェクトに対して影響力が強いステークホルダーは少なくとも中立、できることなら支援的にマネジメントするべきです。(現在、抵抗)
これが目標が優勝でなければ*20これまで通り中立*21でいてくれるでしょう。

さて、私がとるべきステークホルダーエンゲージメントの計画はいったい何でしょうか。

それは、ツールド沖縄市民レース50kmフォーティー2023の結果が出たときにお伝えいたします。
私はPMPを保(ry
なのでもう、計画は立ててあり、エンゲージメントマネジメント(つまり実施)段階にあります。
来年の沖縄はもう始まっているんです。( ー`дー´)キリッ

採用情報

株式会社ネクストスケープでは、一緒にサイクルロードレースも走ってくれる開発エンジニア(Web,スマートフォンアプリ,xRなど)やプロジェクトマネージャーを募集しております。

ご興味がありましたら、採用ページのエントリーフォームよりご応募いただけますと幸いです。

www.nextscape.net

*1:今回のレースで1位になった人。詳しくはこちら宮澤崇史 - Wikipedia

*2:興奮気味に

*3:今思うと、なぜこの時点で彼女の要求事項を察知できなかったのか悔やまれます

*4:育児、というのは夫婦共同タスクであり、どちらか一方が一方的に実施するものではありません。
しかしながら、負担(コスト)「感」は人によって受け止め方が異なっており、仮に、時間配分的に7(奥さん):3(僕)であっても、負担感としては9:1になっているんでしょう。
ここで、僕だって一生懸命やってるんだ、とか、コスト(生活費、教育費、養育費など)的には僕の方が負担してるんだ、などという主張をしても理解されるどころか、大炎上です。

*5:そうです。ワールドカップで同じような発言をして日本中で感動を呼んだあのセリフよろしく、決まった、と思っていたのは僕だけです。

*6:それでも昨対比20kg痩せたんです

*7:全員とは言いません

*8:とはいえ、契約上はその会社が元請けだったんです

*9:まだ若かったのです

*10:ただ動く

*11:悲しいけどこれ、現実なのよね by スレッガー・ロウ

*12:場合によっては抵抗さえしなければよい、中立的でもよい

*13:同じ家族だから

*14:by ダン・アリエリー

*15:自組織に向けてブレイクダウンなり意味を付加するなりして

*16:内外製分析をするにあたって、技術やコスト以上に重要な観点です

*17:例えば金額やインセンティブ、契約形態や技術的に会社として興味がある内容

*18:ユーザー企業が僕たちに発注する、というのはその一環でもあります

*19:その後巻き取ったのは後日談

*20:優勝にかかる僕の時間的コストと引き換えに奥さんに求められるワンオペ育児コスト増にならないということ

*21:文句は言わない