NEXTSCAPE blog

株式会社ネクストスケープの社員による会社公式ブログです。ネスケラボでは、社員が日頃どのようなことに興味をもっているのか、仕事を通してどのような面白いことに取り組んでいるのかなど、会社や技術に関する情報をマイペースに紹介しています。

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ソリューションをエンジニアリングする

こんにちは、Azure ビジネス部 の島田です。

Nextscape は会社全体としてMicrosoft Azure のPaaS開発に強い会社ですが、
Azure ビジネス部は、中でもAzure に関する新しい技術をお客様にいち早く使っていただき、業務に活用していただくことをミッションとしている部門です。

そんなAzure ビジネス部なので、Microsoft の代表的な生成AIサービスとして「Azure OpenAI」というサービスを活用したソリューションに沢山取り組んだ一年でした。

ここまで読んでいただいた皆様は、当然この先にAzure OpenAIにまつわるエトセトラを期待しますよね。実はそれも考えたのですが、(考えたネタがすべてボツったので)今まで十数年やってきたことに対する大きな気づきや、考察をするきっかけになった一年の仕事について振り返ってみることにしました。

ソリューションエンジニアリングとは

今年自分がやってきたメインの仕事に、「ソリューションエンジニアリング」という名前を付けてみました。これは『ソリューションエンジニアの教科書』(山口央(2023).『ソリューションエンジニアの教科書』.翔泳社.)という本で知った後付けのネーミングです。

ここでは、ソリューションエンジニアリングの定義を、顧客の課題を発見し、その課題に対するソリューションを作り上げていく(組み立てていく)お仕事(そしてその結果として成約に至るということをゴールとする)とします。

ソリューションは、SIerであればシステムがメインになりますし、SaaSベンダーであれば自分たちのSaaSサービスそのもの、またはその組み合わせ等が考えられます。

システム化にアプローチする前のいわゆる上流工程に位置づけられますが、新規の顧客に限らず、実際にソリューションを提供しているフェーズの顧客に対しても、そのソリューションを使う上での課題を新しく発見したり、顧客企業で働いている人の様子を観察することで真のニーズに関するヒントを得ることができます。特にSIという仕事をしていると、ソリューションエンジニアリングの機会は至るところにあるのではないでしょうか。

結論:顧客をどれだけ理解できているかがすべて

この1年で痛感したことはこの言葉に集約されています。

例えば、以下のような質問にどれだけ答えられるでしょうか。

  1. 顧客にとっての課題は何か
  2. 顧客はその課題に気づけているのか
  3. 課題を解決することによるインパクトを顧客はどう考えているのか
  4. 顧客の意志決定者は誰か
  5. その意志決定者はソリューション決定にあたりどのような基準を持っているか
  6. そもそも我々はベンダーとして意思決定者にどう期待(評価)されているか

他にも顧客を理解できているかという視点でさまざまな自問をすべきですが、自分自身の1年を振り返ると、これらの質問に答えられていなかったケースがたくさん思い浮かびます。その中でも、よくハマってしまった落とし穴について書いてみたいと思います。

落とし穴①「解決するインパクトのある課題について検討・議論できていない」

これは言葉にしてみると当然できているべきことのように思われますが、意外とできていませんでした。

今年はありがたいことに生成AIに関する世の中の機運が高まり、様々な企業が「とりあえずやってみよう」という姿勢で、生成AIをテーマとした引合いも非常に多かったです。ですが、生成AIというソリューションや手段を使うこと自体が目的化してしまい、「解決する価値のある課題についての議論」がどこかに忘れ去られているケースも多かったと感じています。

もちろん、生成AIのような新規性の強い技術が出てきた場合に「使ってみて何ができるのかを検証し、活用できる業務のユースケースを検討する」ということ自体は大事です。

ここで言いたいことは、ソリューションエンジニアには、「顧客がお金を出してでも解決したいインパクトのある課題を解決できるのか」(So What?)を常に自問し、そうでないのであればそれを見出すためのアプローチをとること(顧客自身が気づけていない課題の深堀をしてみること)が求められるという点です。

落とし穴②「課題解決のインパクトが意志決定者に理解されていない」

十分にインパクトのある課題だと自信を持つところで満足してしまっていることも多かったです。しかし成功のためには、それが意思決定者にとっても同じように理解されていることが必要です。

この点については以下のようなアプローチができると思います。

  1. 意志決定者を特定し、その人が持っているミッション、課題認識、意思決定における観点や基準を踏まえてアピールする
  2. 自分の提案に賛同してくれる意思決定者がいないかを探す

1つ目については、まず大前提として、新しく提案をする際にその提案についての意志決定者を特定できている必要があります。そもそも提案に関わるステークホルダーを特定する必要性についての理解がないと、フェーシングしている担当者からの意見のみを対象にして課題やソリューションを定義することになります。これだと結果として、意思決定者にとってはインパクトの大きい課題になっていないという事態が発生します。

また提案期間が短かったり工数が少ない等、ステークホルダーへの十分なインタビューができない場合もあります。既に取引のある顧客に対してであれば、日頃から顧客を観察したり関係性を作っていろいろな情報にアンテナを立てておき、いざ提案をする際の貴重な情報として使うことも大事だと感じました。

2つ目については、ソリューション自体は顧客にとって有用だと自信を持って言える場合でも、提案先が適切でない(顧客担当者のミッションとは関係がない等)ということも往々にしてあり、そういう場合に有効だと思います。提案先というのは自分たちで開拓できるという柔軟な発想を持っておくことで、よりプロアクティブに機会を創出していくことができます。(この点は実は親会社の営業さんから学んだ部分が非常に多く、貴重な経験でした。)

落とし穴③「顧客は複数のソリューション案を持っていることを忘れている」

これは、特によくある失敗だと思います。当然ですが、顧客に提案しているのは自分たちだけではありません。解決するインパクトのある課題になっていることは前提として、それを解決するソリューションは無数にあるという認識を持ち(つまり競合サービスへの理解も大事)、自分たちのソリューションを採用してもらうための一手を持っておきたいところです。

この点については、以下のようなアプローチができると思います。

  1. システムとしての最適性と実現性のみに終始しない
  2. コスト、付帯するメリット(顧客におけるサプライチェーン等を考慮して)も考えたソリューションになっているかを見直す
  3. 日頃から信頼される仕事をする

特にエンジニアとしての経験が長いと、「システムとしての最適化と実現性」のみに着目し、「コスト」や「付帯するメリット」には意識が向かないことが多いです。これは私も反省する点が多かったです。「なぜ顧客はそのソリューションを選ぶのか」、「より採用してもらえる確度を上げられないか」、「その値段で発注できるのか」を少し想像してみるだけでも、提案のレベルは格段に上がることを実感しました。

そして何よりも大事なのは、(これは提案の成功云々の話とは別の次元で当然ですが)やはり、日頃から信頼される仕事をしているかだと思っています。どんなに顧客にとってインパクトのある課題をとらえ、よりよいソリューションを提案しても、「この人達にできるだろう」と信頼してもらえなければ、顧客は提案を採用してくれないのではないでしょうか。

まとめ:「自分たちのサービスにいくらの値段をつける?」という問いに応えられるか

なんだか盛大なポエムになってしまいましたが、ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。書籍を読んで自分の経験と照らし合わせた気づきについて書いてみましたが、実はまだ見えていないいろいろな前提や状況に応じてアップデートしていきたいと思います。

今年は自分の働き方を考える上できっかけになった様々な出来事があり、色々と自問する機会が多い一年でした。

しかし、一番大きかった問いは今年の春ごろに社長から言われたこの言葉でした。「値付けも一旦島田さんたちでやってみてよ」と言われ、「うーん、これだけ工数がかかるから云々。。。」というような回答をした記憶があります。

しかし一年を振り返ってみて、この言葉に込められた難しさ、奥深さ、サービスを提供するということの意味を今改めて考えています。

いくら工数がかかるかなんて、顧客には関係ない。自分たちの提供するサービスの価値を理解できているのか、つまりは自分たちが日頃顧客を理解し、価値を出せるように常に自分を磨き、価値を出そうと尽力しているのかという問いだったのではないかと思っています。

これは私見ですが、SIerはソリューションエンジニアリングに向いている業態なのではないかと思っています。

SIについてはいわゆる「クライアントワーク」と言われて、一部では「顧客主導の仕事をやっていて自分たちで積極的に課題を発掘する姿勢がない」といった意見もあります。私自身もそういう傾向に陥ってしまっていると反省する場面がたくさんありました。

仕事の構造からしてそういう傾向になりがちなのは認めるとしても、だからと言って「積極的に課題を発掘することができない」わけではありません。

  1. 日々企業で働いている方とのコミュニケーションの機会が与えられている
  2. その機会を活用していろいろな課題に気づく機会が豊富にある
  3. エンジニアはソリューションを考えるのが得意

要は、そういう機会を活用しようという姿勢を持てているか次第だと思います。「自分たちのサービスにいくらの値段をつける?」という問いに応えられるかを常に自問し、これからも仕事をしていきたいと感じた2023年でした。

おまけ:生成AI系のボツネタたち

プロンプトデータの著作権が懸念されたのと、それを回避するデータ作成が間に合わず、ボツネタに。(言い訳です、はい。)

  1. 画像生成系AIを使って、4コマ漫画の4コマ目を生成する(3コマ目までの文脈を元にどんな4コマ目を作るのかに興味があり)

  2. 音声生成系AIを利用して自分の声を学習させたアバターを使った動画を作ってみる

  3. CMなどの口語表現を用いた文脈把握の精度を生成AIモデル毎に比較する

ちなみに下記は、「問い」というプロンプトを入れた際に画像生成AIが生成した画像です。なかなか哲学的で気に入っています。

参考文献

山口央(2023).『ソリューションエンジニアの教科書』.翔泳社.