NEXTSCAPE blog

株式会社ネクストスケープの社員による会社公式ブログです。ネスケラボでは、社員が日頃どのようなことに興味をもっているのか、仕事を通してどのような面白いことに取り組んでいるのかなど、会社や技術に関する情報をマイペースに紹介しています。

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ソリューションアーキテクトについて 

■初めに

今年もしんがりを務めます、ネクストスケープ小杉です。 
毎年、このアドベントカレンダーで、何を考えてきたのか、何を伝えてきたのかを振り返る良い機会になっています。 
昨年はAIの登場によってヒトに残されるのはGRIT力しかないんじゃないか、と書きましたが、この1年間のAIの進化を目の当たりにしながらも、改めてヒトに残された可能性について書いてみます。 

■ソリューションアーキテクトとは 

技術も、マネジメントも、ビジネスも分かってできるヒトのこと。 
そんなスーパーマンみたいな人っているのか?というと、まあ、居ると思いますし、要るんです。この言葉に出会ったのは2年前、親会社のJBSと共に検討中の海外アライアンスパートナー候補から、「このプロジェクトにおけるソリューションアーキテクトは誰だ?」 
「ソリューションアーキテクトが必要だ」と何度も投げかけられたのが最初でした。会話の内容から推論するに、技術(この時は特にAI)を使って顧客の課題を見つけ解決し、ビジネスとして価値を最大化し、Deliverableにするようリスクコントロールし、Team(CoE)のパフォーマンスを発揮できるようマネジメントすることだと。 
それってプロマネの仕事では?アーキテクトの仕事では?プリセールスとかコンサルの仕事では?と思い尋ねると「全部だ」という答え。 

 外資ではCoEなど、専門性を持ったロール(ジョブ)で分業が進んでいると思い込んでいたので、それらを繋ぐ、統合するソリューションアーキテクトというロールが明確に定義されていることに驚きました。 

■なぜソリューションアーキテクトが必要なのか 

高度に専門分野が細分化・深化することにより、各分野の間にエアポケットが生まれます。例えば医療の分野においては、外科、内科、脳外科、心臓外科…といった具合に専門性の高い技術が発達してきました。一方で高度な課題を解決するために高度な専門性を持つ人が他の医療分野には明るくない、ということがおこります。更には組織の縦割り、タコツボ化などが起きると、専門外のエアポケットにある仕事は自分とは関係ないと考えて放置されます。僕は、プロジェクトにおいてこの事象が発生することを「四角い部屋を丸く掃く」と表現しています。医療における「エアポケット」を埋めるのが総合診療医(General Practitioner)ですが、海外では「専門職」として定義されているそうです。 

 思い返すと僕が出た学部は総合政策学部といって、本当に多様な分野の勉強をある意味広く浅く学ぶことができました。 
その時代に教授たちから言われていたことは高度に専門化が進んだ社会においては、それらの知識を統合することが重要だと。さらに考えを深めると、イノベーションというのは全く新しいところから何かが生まれるのではなく、複数の分野の隙間を埋めるように生まれてくると。これがシュンペーターのいうところのイノベーション「(知識の)新結合」です。 

■分業じゃダメなのか 

専門家の間には、何らかのコンフリクト構造があります。コンフリクトマネジメントの戦略としては、対立、回避、妥協、協調がありますが、かつての日本の製造業においては、この「すり合わせ」の妙が、高品質なプロダクトを産んできました。 
しかし、このすり合わせには膨大な時間がかかってきました。それでも価値を提供し続けられたのは、(私が思うに)共通の自然言語、組織内部の莫大な暗黙知、ほぼ同質だと信じる人々の集団…であるが故の価値観共有が、お互いの主張や立ち位置の「のりしろ」として機能していたのではないかと推測します。 

 しかしながら、IT化が進み、グローバル化が進み、ソフトウェアのコンポーネント化が進んでいくと、すり合わせではなく組み合わせでMECE(漏れなくダブり無く)に、素早くデリバリーされていくようになりました。 
不確実性が高く解決策が簡単にわからない状況では、すり合わせにコストと時間を割かずに、高速にインプリメンテーションして市場に問いフィードバックを受け、数多くの失敗の中から決定的な成功(必ずしも正解ではない)をつかみ取る、そんな世の中になってきました。 

■マルチエージェントAIとソリューションアーキテクト

昨今のAIトピックは「自律型AIエージェント」とそれを統合する「マルチエージェントAI」の登場です。これは恰も高度な知識スキルを持つ専門家としての「自律型AIエージェント」と、それを統合的に扱う事ができるソリューションアーキテクトのような「マルチエージェントAI」にも見えます。 

ヒトとしての専門家やソリューションアーキテクトはこのAIに代替されるのかが議論されています。しかし、現時点で私が知る範囲において、自律型AIエージェントとマルチエージェントAIは、それぞれの専門分野のナレッジをまとめて(要約)しているだけに見えます。イノベーションの原点にある「新結合」もなければ、コンフリクトをマネジメントする、つまり矛盾を扱うことによって見えてくる新しい光、希望のようなものはありません。 

■ソリューションアーキテクトであるために意識すること

SIerであるネクストスケープでは、ソリューションアーキテクトを一人でも多く輩出していきたい、そう考えています。(余談ですがネクストスケープにおいてSIerとは、System Integratorではなく、Serial Innovatorと定義しています) 
System Integrationは、実は組み合わせではなく、すり合わせの要素が大きい、つまり時間がかかる行為です。いかに素早くSystemをIntegrationし、少しでも早くDeliveryしていくためにはどうすればよいかを日々考えているなかで、私は、一個人の「ソリューションアーキテクト化」が高速化のカギだと考えるに至りました。 

暗黙知に裏打ちされた「のりしろ」と、これを形式知化されたスキルやナレッジで、ソリューションアーキテクト自らの「のりしろ」を広げ、専門家の可能性を広げた「のりしろ」で張り合わせ、繋ぎ、統合していく。起こりうるコンフリクトと矛盾を楽しみ、自己の中で完結し、判断をする。これが結果として、ネクストスケープが目指す顧客とのSerial Innovationを引き起こすのではないでしょうか。 

コンフリクトをマネジメントし、矛盾を楽しむこと。 
これがソリューションアーキテクトであるための基本的なマインドセットだろうと考えています。