NEXTSCAPE Advent Calendar 2023 13日目の記事です。
はじめに
コロナが流行る前まで、私が所属していた部署では、発表する力を鍛えるためにライトニングトーク大会というものを定期的に催していました。ライトニングトーク(LT)とは5~10分程度の短時間で行われるプレゼンテーションのことです。テーマは自由で、IT関連のことから最近自分がはまっているゲームまで様々なことをみんなで発表し合いました。
今回は、そのLT大会で作成した「体験するデザイン」の内容をここで再発表したいと思います。
デザインというと、魅力的な色合いだとかかっこいい画像だとかを想像しがちですし、そういったものをつくるための専門的な知識や技術が必要だと思い込んでしまうかもしれません。
しかし、ユーザーにとっての普遍的な使いやすさ、わかりやすさ、そういったものを考えることもまたひとつのデザインなのではないでしょうか。
そういったデザインを考えるための基礎となるルールを、このスライド(記事)を通じて開発者である読者の皆さんが少しでも体験することができればと思います。
体験するデザイン
私たちの暮らす世界には「もの」があります。
それらは世界にばらばらと存在しているようにも見え、しかし私たちはそれらの並びに様々な意味を見出し、ルール付けしている。
そのルール付けは時に曖昧です。
人によっては若い女性が老婆に見えたり、壺が人の横顔に見えたり、枯れ木が国家指導者達に見えたりする。
「認知心理学」とは、そんな私たちがどのようにして世界をルール付けしているのかを探る学問です。人間の脳は大きなブラックボックスです。まだまだわからない部分もありますが、ある一定のルールが見いだされています。
そのうちの一部を紹介しましょう。
この画像を見て、まず目に飛び込んできたのは黄色の四角ではありませんでしたか? 見ようと意識していなくても、黄色の四角へ注意を向けてしまったのでは?
このように人間が注意を向ける特質を「示差性」といいます。示差性とは、他とは違うと明らかに知覚できること。
街中でチカチカするライト、赤いマーカーで囲まれた日付、スーパーのチラシやポップの大売出しの広告。注目を集めたい、視覚に訴えるさまざまなものたちは、このテクニックが大いに活用されています。
では、注目を集めたいときには、とにかく目立たせれば良いのでしょうか?
答えは No です。
示差性は他と比較して異なって見えることが第一。みんながみんな違いを強調すると、最終的には似たり寄ったりになってしまい、示差性は失われてしまいます。
わかりやすいのは、選挙のポスターですね。誰もが自分のセールスポイントをアピールしようと派手になりがちですが、いかんせんどれも同じように見えてしまっています。
デザインを語るとき、椅子ほど話題の中心になるものもないそうです。
世界には多種多様な見た目・素材の椅子があります。椅子が椅子であるための条件とは、「お尻で身体を支え、足への負担が小さくなるようにできる」こと。最低限これらの条件がそろっていれば、おおよそ椅子といって差支えないでしょう。
木の切り株、机、公園の車止めや安全枠。これらもまた、椅子としての条件を満たしていることになります。実際、いずれにか腰かけたことがある人は多いと思います。
いずれも他の用途があるもので、椅子として存在しているわけではない。しかし何故か私たちはそれらに座ってしまう。
言い換えると、特定の条件が満たされれば、我々は自然な行為として「座らされてしまう」ようにも思えないでしょうか?
とある切り株について考えてみましょう。この切り株は、安定した平面があり、足の高さと平面がちょうどよい切り株です。
こんな切り株を見ると私たちは「座ることができる」という認識を得ます。そしてそれ以外にも、上に乗る、ものを置く……様々な意味を見出すことができる。
切り株という環境は、私たちに多くの知覚を提供します。
アメリカの知覚心理学者ギブソンは「まず環境側にすでに意味があり、それを人間が環境との関係で見つけ出しているのだ」と提唱し、それをアフォーダンスと名付けました。
今回でいえば、「人間が乗ってもしっかり安定してそうな切り株」という環境がある。そこには「物を乗せる」「歌うためのステージ」「待ち合わせ場所」などなど無数の意味(=アフォーダンス)がある。
その中で、自分が今しようとしている「座る」という行為とセットで考えたとき、「座る事ができるもの(=椅子)」という価値を発見している、ということになります。
では、この意味付けの方向性を定めることができれば、わざわざ説明書きをつけずとも「この切り株は椅子である」という認識を与えられそうじゃないでしょうか?
この切り株の傍にちょうどいい高さのテーブルがあったとしましょう。こうすると、「この切り株は座るためのものなのだ」と認識することができると思います。
このような、適切な行動へ誘導するようなサインを「シグニフィア」といいます。
わかりやすい例としては、ドアの取っ手でしょう。ノブが平たければ、引っ張るのは難しい=押して開けるドアだと認識する。ノブがバー状になっていれば、掴んで引っ張ることに適している=引っ張って開けるドアだと認識する。
逆にこのシグニフィアのデザインが間違っていると、誤った認識を与えてしまうことになります。直感的に使えないな、わかりづらいな、と思ってしまうときは、往々にしてこのシグニフィアのデザインが上手くないのが原因でしょう。読者の皆さんも、身近に思い当たるものがあるのではないでしょうか?
さて、今回は数多ある認識のルールから2つのトピックを切り出して説明しました。
説明した内容は 心を動かすデザインの秘密 認知心理学から見る新しいデザイン学 という本を参考にしています。他にもたくさんのデザインの秘密が掲載されていますので、興味を持った方は是非読んでみてください。
おわりに
「体験するデザイン」はいかがでしたでしょうか?
UX という単語が広がりましたが、これはまさに「体験をデザインする」といえるでしょう。開発者である私たちが、デザインとは何かを少しでも知ることで、成果物の価値をより高めることができるのではないでしょうか。
この記事が開発者の皆さんが新たなステージに上がるための一助、クリスマス的に言えば、ちょっとしたプレゼントになりますように。