NEXTSCAPE blog

株式会社ネクストスケープの社員による会社公式ブログです。ネスケラボでは、社員が日頃どのようなことに興味をもっているのか、仕事を通してどのような面白いことに取り組んでいるのかなど、会社や技術に関する情報をマイペースに紹介しています。

MENU

SECIがAIと出会う日

この記事は株式会社ネクストスケープ2025年アドベントカレンダー第1日目の記事です。DX&HR本部の和田が初日記事を担当します。

 

  • 人間に残る”シゴト”

 今から15年前の2010年だったと記憶しているが、学習型の組織を創り出すための研究会で、ロボットと人工知能(AI)がどうやって人間と協働するのか?が話題になった。その時の結論は、調べることや計算・作業は機械に任せることで、人間は何かを新しく産み出すことを受け持つだろうという予測だった。改めて創造が論点に上ったことで、その更に15年前に発表されていた日本発の知識創造理論SECIモデルの活用に注目するようになる。

  • SECIの基本構造

 会社や組織の中で新しく知識が生まれてくる動的なモデルを表すSECIは、暗黙知と形式知の往復を循環として描いたところが面白いと思う。Socialization(共同化)の段階で人は他人と共に体験し同じ暗黙知を持つようになる。そのうえでExternalization(表出化)の段階でその知に名付けを試み形式知に変える。名付けられた形式知を他の形式知と様々な脈絡でCombination(連結化)を試みる。新たに結合された形式知が、J.シュンペーターの言う「イノベーション」であり、組織はこれを再び暗黙知としてInternalization(内面化)していく。野中郁次郎・竹内弘高両先生の『知識創造企業』で1995年に示され、2020年にはその21世紀版『ワイズカンパニー』で増補解説された"知識創造のお作法”だ。

  • SECIの実践はAIにもできるのか?

 このモデルは当然ながら人間同士の働く企業組織を観察して抽出されたのだが、AIエージェントの劇的な進化と職場への浸透を考えると、その可能性についても考える必要が出てきた。ひょっとして、人間じゃなくてもSECIが回せるなら、知識創造さえも人間がやらなくて済む可能性に戦慄したというのが本音だ。そんな折、当社のエンジニアから広木大地著『AIエージェント人類と協働する機械』という本を紹介される。すると、そこには「SECIモデルとAIエージェントの統合」という章があり、既に4つの段階に対応したAIエージェントの事例が示されている。ああ、こんなにも早くその日が来てしまったのか。

  • 意味と価値は誰が?

 情報取集・構造化エージェントに共同化を任せ、インサイト発見エージェントに表出化を任せ、戦略構築エージェントに連結化を任せ、実践支援・仮説検証エージェントに内面を任せる。確かにこれで知識創造の各段階での作業にAIが活用できそうだと思える。

 一方で、毎度頭を擡げるのが記号接地に関する問題だ。例えば共同化では「同じ暗黙知」を持つ、つまり「(それが事実だと)信じる」ことが必要になる。これは記号化・言語化よりも前の段階で行われており、その暗黙知に名付けようとする動機にもなっている。また、連結化では「良さ」の基準、言い換えれば意味と価値については、どうしても人間が見るしかなさそうだ。AIエージェントが知識創造をかなりの部分で助けてくれることは間違いが、暗黙知の共有に必要な「信じる」ことと、「意味と価値を見出す・認める」ことは、どうやら人間の手に残りそうだ。

  • 改めて人間に問われるのは

 共同化では、いま起きていることや体験していることを暗黙知として信じるためには他の人が必要になる。端折って言えば一緒に働く人と同じものを見て、それを体験して、いま同じものを味わっていると「信じられる能力」が求められるということだろう。更に連結化では、その結合させたものにどんな意味を認めるのか?どんな価値を見出すのか?という「主観を開示する能力」と「相手の主観を理解する能力」が求められる。

  • ネクストスケープはこれからも

 この能力の重要性は、AIエージェントが普及する中で更に高まっていくのは確実だ。SECIの実践ハードルが下がり、連結化による新結合のインフレは必至で、その意味を認め価値を見出す「自分と相手の主観の取り扱い方法」を学ばなければならないだろう。ネクストスケープはこの新結合(イノベーション)を、お客様のビジョンに共感した上で提供することになるが、お客様と同じものを味わっていると信じられるように融け合って、2026年も期待を超える感動を約束したい。